ZEH・HEAT20・断熱等級|目指す断熱レベルは等級5
このブログは、
注文住宅の会社に勤めるサラリーマン建築士の「けんちくん」が、17年の実務経験を基に、家づくりのいろんな疑問にお答えする。
そんなブログになっています。
ZEH・HEAT20・断熱等級、、、
分かりやすく違いを教えてほしい。
断熱性能を示す指標として「ZEH」「HEAT20」「断熱等級」という言葉がありますが、何がどう違うのかよく分かりませんよね。
本記事ではこれから家を建てるにあたり、それら性能の違いと、家づくりをするにあたり、どの指標で考え・どの程度の断熱レベルにすれば良いのかを解説します。
断熱レベル|4つの指標
それは大きく分けて次の4つです。
- 建築物省エネ法(H28省エネ基準)
- ZEH
- HEAT20
- 断熱等級
それぞれについて少し掘り下げて解説します。
建築物省エネ法(H28省エネ基準)
建築物省エネ法で定めている省エネ性能で、時代の流れとともに次のような流れで省エネ基準が変わってきました。
断熱性能のみ基準が設けられ、今の断熱等級でいうところの等級2になります。
新省エネ基準
断熱性の基準強化(現在の断熱等級3)
次世代省エネ基準
さらに断熱性基準強化(現在の断熱等級4)に加え、日射遮蔽性も新基準に新設されました
H11省エネ基準に加え、一次エネルギー消費量の基準が新設されました。
H25省エネ基準との違いは冷房期の日射熱取得率基準の変更
等級が新設されるのは23年振りだったそうです。
2023年時点では省エネ基準の基本となるのはH28省エネ基準となっていますが、
「世界を見ると日本の住宅の性能はまだまだ劣っているぞ」
ということもあって、ZEHは資源エネルギー庁が、HEAT20は民間の研究組織が、より高性能な家づくりを実現させる新たな指標を打ち出したといったところです。
後ほどそれぞれについて詳しく解説しますが、断熱性能の話で切り離せないのが「Ua値」という数値で、まず先にそれをざっくり解説します。
Ua値|家から逃げる熱量を外皮で割り返した数値
Ua値は「外皮平均熱貫流率」の略称で、建物の窓や壁から外部へ逃げる熱量を、外皮1m2あたりに置き換えた数値で、いわゆる「熱の逃げやすさ(熱損失)」を示す数値になっています。
屋根・外壁・床・開口部(窓、玄関ドア)・基礎、この5つの場所から逃げる熱を、同じく5つの場所の面積の合計で割り返すことで1m2あたりの熱損失、つまりUa値が決まります。
熱損失が少なくなるとUa値が小さくなり、その熱損失を少なくする方法は下記のような方法があります。
- 熱の伝えにくい断熱材にする
- 断熱材を厚くする
- 窓やドアの性能を高める
Ua値の数字だけで断熱レベルの良し悪しが判断できるくらいになれば良いですね。
同じUa値でも地域によって高性能にも低性能にもなる
北海道で無暖房生活できるような断熱レベルを東京で採用した場合、オーバースペックなのはイメージできますよね。
住んでる地域によって断熱レベルの基準が変わってくるのは当然ですね。
国交省が地域によって1地域~8地域までの地域区分を定めていますので、住んでる地域の地域区分を確認したい方はこちらをご覧ください。
このUa値という数値を用いて、より詳しい話をします。
断熱等級|等級1~等級7
次世代省エネ基準で定められていた断熱等級4。
今ままでは断熱等級4が断熱性能の指標の最高等級になっていましたが、2022年に等級が3つ追加され現在は等級1~等級7の7段階に分かれています。
2025年以降の新築住宅は等級4が義務化されるため、2022年までは最高等級だった断熱等級4がこれからの最低レベルの性能に、そして2030年には断熱等級5が義務化される予定です。
断熱等級は主にUa値で決まります。
5地域~8地域では冷房期の室内に窓から入ってくる日射熱の量にも制限があります。
以下、等級ごとのUa値の違いです。
お住まいor建設予定地の地域区分を確認したい方はこちらをご覧ください。
ZEH|資源エネルギー庁が定めた「ゼロエネ住宅」
ZEHは経済産業省の資源エネルギー庁が定めた高性能な住宅で「net・Zero・Energy・House(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)」。略して「ゼッチ」と呼びます。
「エネルギーの収支をゼロ以下にする家」という意味があり、住宅の高い断熱性能をベースに高効率化された設備機器を用いて暖房・給水給湯・照明などの生活で消費するエネルギーを削減しつつ太陽光発電などでエネルギーを創出することで、1年間のエネルギー総量をトータルゼロ以下にする家が「ZEH」です。
ZEHの家は、家計管理に例えるとイメージしやすく「年収ー支出=黒字」がZEHの考え方です。
2050年の脱炭素(ゼロカーボン)化を目指すに定められたのがZEHであるため、
ジャブジャブ消費してその分稼げばOKという暮らし方ではなく、できるだけ節約した上で少しの労働で暮らしていける家計がZEHの基本的な考え方です。
ZEHで定められているUa値は以下の通りです。
ZEHは「断熱」「省エネ」「創エネ」の3つの要素があり、
- 断熱性能が上がると、冷暖房に使うエネルギー量を減らすことができる。
- 節水タイプの水栓、少ないエネルギーでお湯を沸かせる高効率給湯ボイラー、消費電力の少ないLED照明など。省エネ化を図る機器類の採用。
- 消費エネルギーを上回るように、太陽光発電システムなどでの創エネ。
その上でZEH住宅は以下4つの条件を満たす必要があります。
- Ua値 1地域0.40~7地域0.87
- 再生可能エネルギーシステムの導入(創エネ)
- 2を導入した上で、一次エネルギー消費量の削減が100%以上
- 再生可能エネルギーを除く、一次エネルギー消費量の削減が20%以上
上記3つの要素によってZEHの中でもいくつか種類が分かれ、ZEHの派生版みたいなものが存在しているので、それについて少し掘り下げてみます。
5種類のZEH
- ZEH(ゼッチ)
- ZEH+(ゼッチプラス)
- ZEH Oriented(ゼッチオリエンティッド)
- Nearly ZEH(ニアリーゼッチ)
- Nearly ZEH+(ニアリーゼッチプラス)
「(高断熱化+省エネ)ー創エネ=ゼロエネ住宅」がZEHです。
ZEHに加えて次の3つのうち2つ以上を採用したのがZEH+です。
- 外皮性能の更なる強化
- 高度エネルギーマネジメント
- 電気自動車を活用した自家消費の拡大措置(EV等連携)
ZEH OrientedはZEHの基準は満たせているけど、地域によって太陽光発電が難しい場合もあるので、創エネしたらZEHになる住宅をZEH Orientedとして認定してもらうことができます。
Nearly ZEHは、断熱基準や省エネ基準はZEHと同じですが、エネルギー消費量削減率がZEHは100%以上であるのに対して75%以上の削減ができればNearly ZEHになります。
翻訳したままの「ZEHに近い住宅」といったところですね。
Nearly ZEH+は、Nearly ZEHとZEH+が合わさったような性能を有する住宅です。
僕は年間50名ほどから家づくりの相談を受けていますが、ZEH+・Nearly ZEH+を要望している人は一人もいませんでした。
世間的にはどの程度要望があるのでしょうかね。電気自動車と家を連携・・・かなり少数派な気がします。
HEAT20 |高性能住宅を提唱する団体の総称
HEAT20はもともと「2020年を見据えた住宅の高断熱化技術開発委員会」という団体の略称で、2009年当時、研究者・住宅・建材生産者団体によって発足された団体です。
すでに2020年は過ぎていて今は「一般社団法人 20年先を見据えた日本の高断熱住宅研究会」高断熱化が建築業界のトレンドになっていますから、HEAT20の活動が活きていると言えますね。
国が推奨するのはZEHですが、HEAT20は研究者や専門家たちが集まって作成した基準ですから、信頼できる基準であることは間違いないですね。
HEAT20が定めた断熱グレード3つの基準
- G1基準
- G2基準
- G3基準
数字が大きいほど高性能になります。
HEAT20のG1~G3のUa値の違いがこちらです。
HEAT20が提案しているG1~G3が目指すものは、単純なUa値だけではなく地域区分ごとに規定した4つの「住宅シナリオ」を満たすことにあり、Ua値はあくまでその目安としています。
たとえばG1では室温をおおむね10℃、G2では13℃、G3では15℃以上を確保することとしていたりしますが、やっぱり分かりやすいのはUa値になると思います。
ZEHもHEAT20も同レベル
僕の住む北海道で比較した場合、ZEHのUa値は0.4で、これは断熱等級5と同等性能です。
他にもHEAT20のG2基準のUa値は0.28で断熱等級6と同等性能。
そしてHEAT20のG3基準のUa値は0.20で断熱等級7と同等性能。
基本的にはこれらの性能に対して創エネするとZEHになる、といったところです。
断熱性能が高い住宅のメリット
断熱性能が高い住宅には次のようなメリットがあります。
- 快適な室内環境になる
- 節約・節電できる
- ヒートショックのリスク軽減
- 補助金や金利の優遇
快適な室内環境
高断熱の住宅は外気の影響を受けにくいため、冬は暖かく、夏は涼しい室内環境で過ごすことができます。
高断熱住宅は魔法瓶に例えられて、冷たい飲み物はいつまでも冷たく、温かい飲み物はいつまでも温かい。それと同じで高断熱住宅は外気温に影響されない、快適な温度で過ごすことが可能となります。
節約・節電
外気の影響を受けにくい高断熱住宅では、ちょっとの暖房エネルギーで家中暖めることができ、ちょっとの冷房エネルギーで家中涼しくすることができます。
暖房費や冷房費を小さなエネルギーに抑えることができるので、毎月の暖冷房費(ランニングコスト)を抑えることが可能となります。
ヒートショックのリスク軽減
暖かい部屋と寒い部屋との温度差により急激な血圧変動が原因となるヒートショック。
とくに多いのが浴室での事故です。
ヒートショックに関連した入浴中の死亡事故は、交通事故の死亡者数よりも何倍も多いといわれています。
NHKのネットニュースによると、年間2万人以上が入浴中に亡くなったと推測されています。
交通事故の死亡者数は年間3,000人を下回っているので、その数およそ7倍弱。
暖かい室内→寒い脱衣室→寒い浴室→暖かい湯船、という流れで血圧変動し、ヒートショックに至ります。
高断熱住宅は室内→脱衣室→浴室の温度差が小さいので、血圧変動を抑えることができるので、ヒートショックのリスクを軽減することが可能となります。
補助金や金利の優遇
一定の省エネ性能を満たすことで補助を受けられる制度があります。
2023年現在、国土交通省による「こどもエコすまい支援事業」があり、ZEH相当の高性能住宅には100万円の補助金が受けられるという支援事業です。
当初は1500億円の予算でしたが、7月末に209億3500万円増額し、最終的には予算総額1709億3500万円の予算となりました。
ここからも、国を挙げて脱炭素化(高性能住宅の普及)を後押ししているのが分かりますね。
また、金融機関によっては高性能な住宅を建てると住宅ローンの金利引下を行っている銀行があったり、住宅ローン減税や贈与税などの税制優遇を受けられるというところもメリットです。
断熱性能の基準がいろいろあるけど結局どれが良い?
ZEH/ZEH+/ZEH Oriented/Nearly ZEH/Nearly ZEH+
HEAT20のG1基準/G2基準/G3基準
断熱等級1〜等級7
住宅性能を示すものが多すぎて、結局どれが良いのか分かりにくいですよね。
ネット記事を読んでいると、ZEHにするか、HEAT20ならG3基準、断熱等級なら等級7、といった、最高等級にすべき、という人たちがたくさんいます。
でも正直、そこまでいらんくない、というのがあくまで僕の意見です。
まずはUa値で比較するとZEHは断熱等級5相当になります。
断熱等級は、ある程度の断熱レベルからは費用対効果が低くなり、等級7は性能に特別なこだわりがある人向けだと思います。
コスパ的にちょうど良いところが断熱等級6だと思っています。予算次第では等級4では心許ないので、等級5でも十分快適と言える室内環境になると思います。
断熱等級引上げ前のパブリックコメントでは「断熱等級7は基準として高すぎるのではないか」との意見もあり、プロでもオーバースペックだと思っている人もいます。
ちなみにこの問いに対しての国交省の回答は「住宅性能表示制度は任意の制度であり、必要に応じて選択できるよう、新たな等級を設けるもの」とのことです。
最終的には予算との兼ね合いになってきます。
やりたいことを叶えた上で予算があるなら等級7にすれば良いし、さらに太陽光パネルを乗せる費用の余裕があるならZEHを目指すのも良いと思います。
以上、参考になれば幸いです。
最後までお付き合いいただきありがとうございました。